東アジア移住共生映画祭

The 2nd East Asia Migrant & Coexistence Film Festival

ご挨拶

東アジア移住共生映画祭

-「第2回東アジア移住共生映画祭」を開催するにあたって−

東アジアの移住と共生を考える映画祭を、一昨年に続き、ここ熊本で開催することになりました。私たちの身近で生きているのに、あたかも透明人間のように、その存在を感じることが出来ない「他者でない他者」を描いた映画に出会うことは、実は「身内でない身内」と正面から向かい合う、胸踊る素晴らしい出来事なのです。

映画祭にはとてもたくさんの人たちが登場します。中国、韓国、日本人が登場するかと思えば、フィリピン、インドネシア、タイ人も登場し、ウズベキスタン、ネパール、インド、バングラデシュ、ベトナム、シンガポール、ブラジル人も登場します。どの映画も一つの国の人だけが登場するのではありません。インドネシアの中のシンガポール人、フィリピンの中の日本人、韓国の中のネパール人に映画を通して出会うことになるでしょう。熊本のトマト農家と長野のレタス農家、或いは宮崎のカツオ漁船の中に存在する、また違う「身内」を発見することでしょう。

今回の映画祭では、特に農村の結婚移住をテーマにした映画を多く準備しています。注目作品の韓国映画「ウェディングキャンペーン」と、閉幕作品の日本映画「恋するトマト」は互いに別の国の話ですが、東アジアの農村の現実がどれほど類似しているかを私たちに教えてくれます。韓国と日本の農村に住む未婚中年男性が、それぞれウズベキスタンとフィリピンに、自分のパートナーを求めて旅立ちますが、その道は順風満帆でなくとも真実の愛は通じることを私たちに気付かせてくれるでしょう。

結婚移住の次の世代、すなわち結婚移住2世の話も、今回の映画祭だけの独特な見所だと言えます。アニメーション映画「シャバンシャバン シャララ」と劇映画「セリとハル」は、巨大な国家共同体次元だけではなく、一つの家族構成員内にも他者が存在していることを示してくれます。葛藤し、衝突もするが、母と娘の間の暖かい愛情と国境を越えた子供たちの心温まる友情が、どうすれば「他者」を「身内」に変えることが出来るのかを教えてくれます。

実際にイギリスで起きた中国人の移住労働者の死を描いた話題の映画「ゴースト」(開幕作品)を始め、テロリストではないテロリストの死を描いた映画「グッドバイ・テロリスト」も、今回の映画祭を通じて日本で初めて公開される映画です。彼らを死へと追いやったのは、果たして誰なのか、私たち全員の責任ではないか、これらの映画が私たちに問いかけています。

韓国映画「マラソン」で日本のファンからもよく知られているチャン・ユンチョル監督の短編映画「潜水王ムハマド」は、潜水王にならなければ生き抜くことが出来ない移住労働者の現状を、あたかも一編の抒情詩のような美しい映像と音楽で演出しており、バングラデシュ出身の監督マブプ・アロムは、映画「Returnee」を通してそれぞれの故郷に帰った移住労働者たちの「ポスト マイグラント(post migrant)」の現実を、東アジア共生の観点から新たに模索しています。

映画「BATAM」とミュージックビデオ「給料日pay day」も、やはり今回の映画祭から外すことの出来ない作品です。映画「BATAM」は、岩井俊二監督の「スワロウテイル」の中の「円盗」が現実の世界でどのように存在しているのかを見せてくれるドキュメンタリー映画として、東アジアの中に存在する新自由主義の果てをあたかも黙示録のように私たちに見せてくれます。ミュージックビデオ「給料日pay day」の移住民バンド「ストップクラックダウン」が披露するミュージックビデオも侮れません。ネパール出身のリードヴォーカル「ミヌ」と、インドネシア出身の移住民、韓国人ミュージシャンが一つになって作り上げたこのバンドは、国境を横断する新しい形態の多文化の可能性を、とても力強く、とても豊かに、私たちに抱かせてくれます。

映画祭はこの先、東アジアに存在するこれらの移住共生映画を一箇所に集めて上映するだけでなく、彼らが生きている東アジアの村と村を連結させる役割を果たすことになるでしょう。多くの農業移住民が住んでいる村と彼らの故郷の村で、移住共生映画祭が同時に上映される日を私たちは夢見ています。そのような意味で農業移住民が多い熊本で、今回の映画祭を企画できたことは、とても深い意味を持っているといえるでしょう。熊本とフィリピンのマニラの人々、北九州とベトナムのハノイの人々、韓国の光州と中国の延吉、仁川とネパールのカトマンズの人々が、映画祭を通して、一緒に手をつなぐ世界、そのような東アジアを一緒に夢見ましょう。これらの映画が花咲かせる「美しい共生の錬金術」を夢見るだけでも私たちの胸は一杯になります。

第2回東アジア移住共生映画祭実行委員会
代表 申明直